村上の新作

『騎士団長』を読みながら、この物語の登場人物のせりふの背後には村上がいるのを感じた。登場人物を創造するのは作者であるから、あたりまえのことだとは思うが、まるで村上が登場人物をあやつるかのように、いちいち登場人物の背後に移動しているように感じる。もう、これは村上の術中にはまっているということなのか。もうひとつ、強く感じるのは、登場人物のせりふも含めて、この小説は翻訳調に聞こえることだ。特にその会話のやりとりには、現実のことばのやりとりとは何か違うものを感じる。主人公が発見した「穴」にひとり入り時をすごす場面を読んでいると、井戸に落ちた兵士のことを思い出した。物語の展開は比較的容易に予想できるものであり、難解な表現は出てこないため、読みやすくなっている。しかし、二冊あわせて1000ページを越す長さになっているので、それなりには時間がかかる。